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シリカスラリーの安定性がディフェクト性能に与える影響

ニッタ・ハース株式会社 ○木村 浩,吉田 光一

出典: 公益社団法人精密工学会 2017年度春季大会

1. 背景
近年、半導体デバイスの微細化により、ディフェクト性能の向上がより強く求められている。そして、酸化膜研磨におけるディフェクト性能は、スラリー中の凝集粒子の数(以下、粗大粒子数)と相関があり1)、ディフェクト性能の改善は粗大粒子数を低減することがほとんど唯一の方法と考えられている。
酸化膜研磨における化学的作用は酸化膜表面を軟化する役割のみで、それを除去する機械的な作用が研磨性能を決める支配的な要因。その機械的作用とはすなわち酸化膜と接触する砥粒の役割であり、それの粗大粒子を低減してディフェクト性能を改善することは極めて明快な論理と言える。しかし粗大粒子の低減は砥粒の選定および大きさを調整する分散工程や粗大粒子を除去するろ過工程に依存することがほとんどであり、近年それらの進歩的な改善は見られていない。
そこで本研究では新たな指標として砥粒の動的安定性に着目し、それを制御することによってディフェクト性能をより改善することを試みた。

2. 砥粒の動的安定性制御方法
動的安定性とは砥粒に対して動的負荷が加わった際の凝集し難さと言い換えることができる。砥粒には研磨の際に圧縮やせん断力といった動的負荷が加わる。その際に生成される凝集粒子を抑制することがスラリーのディフェクト性能改善に大きく寄与すると考えた。
本研究では、動的安定性を改善する方法として砥粒表面の改質を試みた。本研究においては砥粒にシリカを用いる。シリカ表面の改質方法として、シリカ生産工程における表面処理が良く知られている。たとえばシリコーンオイルやシラン化合物によってシリカ表面のシラノール基を置換している。しかし乾式シリカの段階で表面のシラノール基を置換すると、シリカの分散性が大きく変化することでスラリーの生産工程における品質制御が容易ではなくなる。したがって、砥粒表面の改質をスラリー生産工程において行うことを試みた。
水溶液中のシリカ表面は、シラノール基から水素イオンが溶液中の水酸基によって引き抜かれ、Si-O-と水ができている。
このシリカ表面の「O-」のカウンターカチオンを持つ添加剤を加えることによって、電気的に吸着させることができると考えた。具体的には「X+」+「OH-」の構造を持った添加剤を評価した。
この「X+」はシリカ表面への吸着および砥粒の凝集を抑制する立体障害および被加工物との接触した際の緩衝材としての役割を果たすことを狙いとした構造であり、「OH-」はシリカ粒子のゼータ電位を維持、もしくは改善する役割を果たす狙いとなる。
本研究ではこの「X+」の選択によって砥粒の動的安定性をより効果的に制御することができることを検証している。

3. 動的安定性
3.1 サンプル作製
 評価用のスラリーは砥粒にフュームドシリカ20.0%、pHはアルカリ水溶液を使用して全て11.0に調整している。これらの条件で作製したベーススラリーに「X+」+「OH-」構造を持った添加剤を添加して評価用スラリーを作製した。
立体障害の大きさは分子量に依存すると考え、それを評価するために、それぞれ分子量の違う「X+」+「OH-」構造を持った添加剤を使用してサンプルスラリーを作製した。添加剤濃度は全てのサンプルで一定としている。

3.2 動的安定性評価
動的安定性の評価は振とう機で動的負荷を10日間継続的に与えて、その粒子成長を確認することによって行なった。振とう機の試験条件を表1に、試験結果を図1-aに、図1-aの分子量係数Yが2以下での粒子成長率変化が見やすいように粒子成長率のレンジを0-100%に絞ったグラフを図 1-bに示す。また、図1の粒子径成長率は (1) 式によって求めている。

粒子径成長率(%)=(試験後メジアン粒子径÷試験前メジアン粒子径) - 1 ×100 …(1)

動的安定性の評価の結果、分子量係数Yが1.0~1.6においては動的負荷を与えても粒子径が安定し、添加剤なしに比べて動的安定性が改善していることが確認できた。しかし係数Yが1.8の添加剤では添加剤なしと有意な差はなくなり、2.0を超えると粒子径がむしろ成長しやすくなり、スラリーがゲル化する傾向が見られた。
この要因として添加剤の「X+」の分子量が大きくなることで、その大きさがシリカ表面に分布する各「O-」間の距離を越えてしまい、「X+」同士が干渉することでシリカ表面の「O-」に対して1対1では吸着できなくなり、有効に立体障害が構築できなくなることが考えられる。さらに分子量が大きい「X+」を選択すると、その長鎖状の構造によって「X+」同士が絡まることで安定性が悪化してしまったと考えられる。
これらの現象はゼータ電位やシリカ表面に吸着できなかった添加剤濃度を測定することによって検証することができる。

4. 研磨試験
4.1 研磨レート評価
本項では動的安定性が最も優れていた分子量係数Yが1.2の添加剤を使用し、その濃度を3水準に振ったスラリーでTEOS膜の研磨レートを評価した。この目的はシリカ表面に添加剤を結合することによって、研磨を阻害する可能性があり、それを研磨レートにて確認している。研磨試験条件を表2に、結果を図2に示す

表2 研磨試験条件
研磨機 EPO222D (荏原製作所)
研磨圧力 [MPa] 35
定盤回転数 [min-1] 60
キャリア回転数 [min-1] 40
スラリー流量 [ml/min] 150
研磨時間 [min] 60

図2の結果より、添加剤濃度が高くなると、研磨を阻害する効果が大きくなり、研磨レートを低下させてしまうことが確認できた。また、添加剤濃度係数Zが1.0以上で粒子径成長率が変化しなくなることから、シリカ表面に結合して動的安定性の改善に寄与できる添加剤量は1.0付近となると考えられる。

4.2 ディフェクト性能評価
本項では分子量係数Y=1.2の添加剤を添加剤濃度係数Z=1.0となるように作製したスラリーサンプルで、動的安定性の改善効果を確認するためにディフェクト評価を実施した。研磨条件を表3に、ディフェクト数の箱ひげ図を図3に示す。

表3 研磨試験条件
研磨機 FREX (荏原製作所製)
ヘッド G2
研磨圧力 [hPa]
CAP/RAP/OAP/EAR/RRP/PCP
285/280/250/240/350/140
ヘッド/プラテン回転数[min-1] 60/61
スラリー流量 [ml/min] 200
研磨時間 [min] 60

図3を見ると添加剤を加えて動的安定性を改善したサンプルでディフェクト数が約半分に低減していることが確認できた。以上の結果より、添加剤によってシリカの動的安定性を改善することでスラリーのディフェクト性能を改善できることが確認できた。

5. まとめ
本研究の結果より、水溶液中のシリカ表面のSi-O-と吸着できる「X+」+「OH-」の構造を持った添加剤を供給することでシリカ表面を改質し、動的安定性を改善することができることを明確に示すとともに、適切な添加剤の選択および評価方法も示すことができた。
さらに砥粒表面の改質によって砥粒の動的安定性を向上することで、ディフェクト性能の改善が可能であることを示し、今後求められる低ディフェクトスラリーの方向性を示すことができた。

参考文献
1) 太田慶治 CMP技術体系 精密工学会 グローバルネット(2006) P420-421

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