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複数種の水溶性高分子を用いた低欠陥・高平滑性シリコンウェーハ研磨用スラリーの開発

ニッタ・ハース 株式会社 ○杉田 規章、松下 隆幸、吉田 光一

出典: 公益社団法人精密工学会 プラナリゼーションCMPとその応用技術専門委員会 第170回研究会(2018/12/21)

1.緒言
半導体素子の高性能化および高集積化は年々進んでおり、デバイス形成前のシリコンウェーハに対しては欠陥、および平滑性等の要求がますます厳しくなっている。
一般的に、シリコンウェーハの研磨工程は、複数のプロセスに分かれており、それぞれのプロセスによって求められる研磨性能も異なる。また、シリコンウェーハの研磨方法としては、化学的研磨作用と機械的研磨作用とを複合化させた化学的機械的研磨(ケミカルメカニカルポリシング:CMP)1)が一般的であり、アルカリでpHを調整した水溶液の中に微小なシリカ粒子をコロイド状に分散させた研磨液(スラリー)を用いることによって、優れた平滑性及び鏡面が得られることが知られている。
特に、シリコンウェーハ製造の最終研磨工程(仕上げ研磨)では、表面に欠陥がなく、平滑性の高いシリコンウェーハが求められており、スラリーや研磨パッド等の研磨消耗資材の組み合わせや研磨条件の最適化が進められている。
近年の仕上げ研磨スラリーに関する研究では、複数種の水溶性高分子を含むスラリーを調製することで、表面欠陥や平滑性の指標であるLPD(Light Point Defect)やヘイズ(Haze)の低減検討を行っている。特にポリオキシアルキレンエーテル構造を有する水溶性高分子である物質aはLPDやHazeの低減効果があることが分かっている。
そこで本報では、ポリオキシアルキレンエーテル構造を有する水溶性高分子である物質aに着目し、物質aの添加濃度がLPDやHazeへ与える影響を検証した結果について報告する。

2. 実験方法
2.1スラリーの調製及び物性評価
研磨評価用のスラリーとして、砥粒にコロイダルシリカ:10.5wt%、アルカリにアンモニア:0.4wt%、水溶性高分子にセルロース系水溶性高分子とポリオキシアルキレンエーテル構造を有する水溶性高分子である物質a、及び脱イオン水(DIW)を用いてスラリーの調製を行った。
物性評価としては、材料のシリカ砥粒と最終製品であるスラリーの平均粒子径とを、それぞれ動的光散乱法(ELS-Z2、大塚電子株式会社製)を用いて測定し、粒子径変化率(1)式を求めた。
粒子径変化率(%)=(スラリーの平均粒子径÷砥粒単体の平均粒子径×100) -100・・・(1)

2.2研磨評価及びウェーハ測定
研磨評価は図1に示す機構を持つ研磨機を用い、表1に示す研磨条件でシリコンウェーハの研磨を行った。
研磨後のウェーハは、APM(DIW、アンモニア、過酸化水素水の混合溶液)を用いて洗浄した後に、ウェーハ表面のLPD及びHazeを表面検査装置(LS6600、日立電子エンジニアリング株式会社製)を用いて測定した。
LPDは、欠陥の大きさが60nm以上のサイズについて測定し、研磨速度は研磨前後のウェーハ重量の変化量から算出した。

3.結果及び考察
図2にポリオキシアルキレンエーテル構造を有する水溶性高分子である物質aの添加濃度とLPD及びHazeの関係を示す。ここで、物質aの添加濃度はセルロース系高分子の濃度を100としたときの相対値で表す。また、LPDとHaze性能については物質aが未添加時の各研磨性能を100とした相対値で表す。
図2の結果から、物質aの添加濃度が増加することに従ってLPDとHazeは改善する傾向があることが分かった。しかし、物質aの添加濃度が17の場合には、LPDが悪化する結果となった。この時、研磨後ウェーハ表面には部分的に撥水面が見られ、完全に親水膜に覆われた状態では無かった。
図3に物質aの添加濃度と研磨速度の関係を示す。図3の結果から、物質aの添加濃度が増加することにより研磨速度が低下することが分かった。
図4に物質aの添加濃度と粒子径変化率の関係を示す。図4の結果から、物質aの添加濃度が増加することにより粒子径変化率が低下することが分かった。

次に、図5に各水溶性高分子溶液とエッチングレートの関係を示す。評価条件としては、1.5%のフッ化水素酸水溶液に20秒間浸漬させて自然酸化膜を除去したシリコンウェーハの試験片(1.5cm×4cm)を、1%アンモニア水溶液、セルロース系水溶性高分子(濃度1%)を含む1%アンモニア水溶液、及び物質a(濃度1%)を含む1%アンモニア水溶液にそれぞれ浸漬させ、その状態を室温で23時間保持した。
浸漬後の試験片を乾燥させて、浸漬前後での重量差を測定した。なお、シリコンウェーハのエッチングレートは(2)式によって求めた。
エッチングレート=(浸漬前重量-浸漬後重量)÷(シリコン密度×基板面積×浸漬時間)・・・(2)

図5の結果から、シリコンのエッチングレートは水溶性高分子の存在下ではアンモニアによるエッチングが抑制される傾向にあり、さらに、セルロース系水溶性高分子と物質aとでは、物質aのエッチング抑制効果が強かった。
このことより、物質aの添加濃度に従いHazeが改善した理由としては、エッチング抑制効果が高い物質aがセルロース系水溶性高分子よりも積極的にシリコンウェーハ表面に吸着し、その強いエッチング抑制効果によってエッチング起因の粗さ悪化が改善されたと考えられる。
図5各水溶性高分子溶液とエッチングレートの関係
図3の結果より、物質aはセルロース系水溶性高分子よりもシリコンウェーハ研磨を抑制する効果が強い、すなわち、ウェーハ表面の保護膜としての効果が上がったと考えられる。また、図4の結果より、物質aはセルロース系水溶性高分子に比べシリコンウェーハへの吸着性が高いと考えられる。
以上のことより、物質aはシリコンウェーハ表面の保護性を高め、シリカ砥粒の付着やスクラッチ等のダメージからシリコンウェーハ表面を保護する効果によりLPDを改善したと考えられる。
しかしながら、物質aがLPD改善に効果がある一方で、ある一定濃度以上ではセルロース系水溶性高分子の親水膜形成機能を阻害し、部分的な撥水面を発生させてしまう弊害がある。この撥水面は非常に活性なシリコン表面であることより、研磨加工後にシリカ粒子の付着汚染から十分に表面を保護できず2)LPD悪化に繋がると考えられる。
これらのことより、LPDとHazeの双方を同時に改善させるには、物質aの添加濃度を好適範囲に設定する必要があると言える。

4.結言
本研究では複数の水溶性高分子を用いたスラリーでシリコンウェーハの研磨性能の改善検討を行った結果、セルロース系水溶性高分子と、ポリオキシアルキレンエーテル構造を有する水溶性高分子である物質aを併用することでLPDとHazeの両研磨性能を改善するには、物質aの添加濃度に好適範囲があることが分かった。また、これらの研磨性能を改善できる理由としては、物質aのシリコンウェーハに対する表面保護性、吸着性、及びエッチング抑制効果が高いためであると考えられる。

参考文献
1) 詳説半導体のCMP技術  土肥俊郎
2) 超精密ウェーハ表面制御技術  松下嘉明/深谷栄/津屋英樹/高須新一郎

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