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ウレタンパッドを用いた研磨時のフリクションを低減可能な水溶性高分子の特徴

ニッタ・ハース株式会社 ○ 山崎 智基 ,松下 隆幸,吉田 光一

出典:公益社団法人精密工学会(2019年)

1.背景
半導体製造においてシリコンウェーハ 研磨 加工は重要な技術であり、一般的にシリコンウェーハは定盤上のパッドに対して荷重や回転を与えられながら加工される。荷重や回転数が増すとフリクションの増大によって品質低下や不具合が発生する場合がある。本研究ではパッド材質として一般的なウレタンパッドの研磨フリクションを観察し、スラリーへの添加によってフリクション低減が見られる水溶性高分子の特徴について報告する 。

2.方法
2-1. フリクション評価方法
表 1 に示す条件を用いてワークを加工する際に 、ヘッド に対して水平方向に作用する力 F f を測定し、 式 1 に示すように 研磨荷重F n で除した値を摩擦係数 CoF Coefficient of Friction として 算出した。スラリー中の ポリマー濃度が 所定 値となるように 供給タンク内のスラリーへ ポリマー水溶液を添加し、ポリマー 濃度毎のCoF を 測定 した。スラリー中のポリマー濃度の水準は、 0 、 10 、30 、 50ppm とした。

2-2. フリクション評価用 ワークの選定
一般的なシリコンウェーハ加工においてウェーハはワーク保持材を介してヘッド に保持され ている 。ワーク保持材はおもにバックパッド と リテーナリングから構成され 、その構造から加工中にシリコンウェーハに加えて リテーナリング も パッド と 接触している (図 1 )。 そ こで シリコンウェーハ および リテーナリングの材質であるガラスエポキシ樹脂ワークを用い、ウレタン パッドに対する C oF の 比較を行なった。

2-3 使用 した ポリマーについて
エチレンオキサイド( Ethylene O xide ; EO ユニット を有するポリ マーは産業界の様々な用途で使用されており、シリコンウェーハ研磨 スラリーに おいて も広く使用されている。本研究では EOユニットを有するポリマーの ユニット数や 構造 、また EO ユニットを含まないポリマーについて 、CoF に対する影響を比較した。

3.結果
3-1. 加工ワークの CoF 比較
表 1 に示す条件下で、シリコンウェーハとガラスエポキシ樹脂の CoF を比較した結果、ガラスエポキシ樹脂の CoF の方が高いことが確認された (図 2 。 また、 スラリー中のポリマー濃度を増やすと低濃度では大きな変化は見られないが、 30ppm 以上で いずれのワーク も CoF が 低減 し、ポリマー無添加時 0ppm に対 する CoF 低減量 (Δ CoF はガラスエポキシ樹脂の 方がより大きいことが確認された。両ワーク間の上記差異の 理由は定かではないが、使用したワークの研磨面がシリコンウェーハ( Ra 0. 5nm 以下)よりもガラスエポキシ樹脂(同測定条件で Ra 数 nm )の方が粗いことから、パッド表面粗さの凸部に対してより強く接触するためと考えられる。本研究ではフリクション評価用ワーク としてガラスエポキシ樹脂を用いることとした。

3-2. EO ユニットを含むポリマー比較
EO ユニットを含む直鎖型のポリマーについてΔCoF を比較した(図3)。いずれもポリマー濃度が増すとΔCoF は大きくなる傾向がある。EO ユニット数が変化するとΔCoF も変化し、相対値1.0~5.0 では効果がなく、7.7 以上で効果が見られ、40.0 が最も効果が高く、100.0 以上では効果が低下した。加工中にスラリー中のポリマー分子はパッドおよびワーク表面に近接して吸着膜を形成し、ポリマー吸着膜がパッドとワークとの接触面に介在することで研磨フリクションが低減すると考えられる。EO ユニット数が少ないポリマーでは恐らく吸着膜の厚さが不十分であるため効果が低く、一方EO ユニット数が多いポリマーでは単位濃度当りの分子数が少ないため、吸着膜がパッドとワーク間の接触面全体をカバーすることができなくなり効果が低下すると考えられる。次に、分子中にEO ユニットと他の構造を含むポリマーについてΔCoF を比較した(図4)。上述のEO ユニットのみを含む場合と同様にいずれもポリマー濃度やEO ユニット数の増加に伴ってΔCoF が大きくなる傾向となった。加えてEO ユニットではない構造X 部が存在することで、直鎖型ポリマーの場合では効果がないポリマー(図3 直鎖型1~5、EO ユニット数 相対値1.0~5.0)と同等のEO ユニット数のポリマーにおいても、ΔCoF の低減が見られるようになった。また、構造X 部の分子量の増加に伴いΔCoF が大きくなる傾向となった。構造X 部の存在により、形成される吸着膜の性質が変化することでフリクション低減に対する効果が大きくなった可能性がある。

3-3. EO ユニットを含まないポリマー比較
EOユニットを含まないポリマーについてΔCoFを比較した(図5)。構造Z はEO ユニットと同様に水溶性が高い分子ユニットであり、EO ユニットを含むポリマーと同様にパッドやワーク表面へ吸着膜を形成すると考えられるが、EO ユニットを含む場合と比較してフリクション低減効果は著しく小さい傾向であることを確認した。EO ユニットを含むポリマーが形成する吸着膜と比較して、吸着膜の厚みや強度などが不十分である可能性がある。

4. まとめ
シリコンウェーハ加工時に発生する研磨フリクションを低減する水溶性ポリマーについて調査を行なった。EO ユニットを含むポリマーはフリクション低減効果を示し、濃度が増すと効果が強くなる傾向がある。またEO ユニット数は効果が発現する領域が存在することが確認された。またEO ユニットと他の構造を含むポリマーはEO ユニットのみを含むポリマーよりも効果が向上する場合があることが分かった。一方EO ユニットを含まないポリマーでは効果が著しく低い場合があることが分かった。

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