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シリコンウェーハ研磨におけるスラリー中のアルカリ種と研磨性能との関係調査

ニッタ・ハース株式会社 ○ 松田 修平,松下 隆幸,吉田 光一

出典: 公益社団法人精密工学会 プラナリゼーションCMPとその応用技術専門委員会 第170回研究会(2018/12/21)

1.背景
シリコンウェーハ研磨用スラリーは、主に砥粒とアルカリで構成されており、砥粒による機械的研磨作用とアルカリによる化学的研磨作用によってシリコンウェーハは研磨されている。シリコンウェーハの研磨は一般的に三段階で行われており、それぞれ一次研磨、二次研磨、最終研磨と言われ、スラリーに要求される性能も様々である1)。要求性能に応じて使用するアルカリの種類も選定しなければならないが、アルカリの種類は多種多様であり、アルカリ種と研磨性能の関係も明らかとなっていない。
そこで本研究では、特に高い研磨レートが必要とされるプロセスにおいて一般的に研磨促進剤として用いられるアミンに着目し、化学構造と研磨性能との関係を調査した。

2.方法
2-1.静的エッチング試験
構造の異なるアルカリをそれぞれ0.024mol/kg濃度の水溶液に調製し、事前にHFで酸化膜を除去したシリコンウェーハをこのアルカリ水溶液に室温で17時間浸漬しエッチング処理を行った。
エッチングレートは浸漬前後のウェーハ重量差から式(1)を用いて算出した。

エッチングレート=(浸漬前重量−浸漬後重量)÷(シリコン密度×基板面積×浸漬時間)・・・(1)

アルカリ種としては級数、アルキル鎖分岐数、アルキル鎖長のそれぞれ異なるアルキルアミンを用いた。

2-2.研磨試験
コロイダルシリカ3.0wt%、アルカリ0.024mol/kgとなるようにスラリーを調製し、これを10倍希釈したものであらかじめ酸化膜を除去したシリコンウェーハの研磨を行った。研磨条件を表1に示す。
アルカリにはエッチング試験と同様のアミンを用いた。

3. 結果
3-1. アミン級数比較
アルキルアミンの級数の違いによる静的エッチング試験、研磨試験の結果を確認したところ、静的エッチング試験では二級>一級>三級の順にシリコンウェーハに対するエッチング力が高くなる結果となったが、研磨試験では三級>二級>一級となり、静的エッチング試験と研磨試験とでは傾向が異なった。
アミンの塩基性の強さとしては、官能基がアルキル基などの電子供与性基の場合、一般的に二級>一級>三級であると言われている。エッチング試験の結果から、アミンの塩基性とシリコンウェーハに対するエッチング力に相関があると言える。一方、研磨試験では、塩基性の強さとの相関は得られない結果となった。このことについて、以下のように考察した。
アミンの塩基性の強さは窒素原子の電子密度の高さであると言い換えることができる。電子密度に着目すると、官能基がアルキル基のような電子供与性の場合、理論上は電子供与性基の数が多いほど電子密度が高くなるため、電子密度としては、三級>二級>一級となるが、三級アミンでは立体障害により窒素原子上の電子の反応が阻害されるため、塩基性が弱くなると言われている。研磨試験では、窒素原子の電子密度の高さと研磨レートに相関がみられていることから、研磨では圧力・せん断力・温度などが加わっているため、これらの外的要因により立体障害の影響が弱まり、窒素原子上の電子がより作用しやすい状況が生まれたのではないかと考えられる。

3-2.アルキル鎖分岐数比較
一級のアルキルアミンでアルキル鎖の分岐数の違いによる静的エッチング試験、研磨試験の結果を確認したところ、エッチング試験、研磨試験ともに分岐数が少ない(直鎖に近い)程、エッチングレート、研磨レートが高い傾向がみられた。
前述の内容では、塩基性の強さ、窒素原子の電子密度がキーパラメーターであると述べたが、それぞれ同じ炭素数の一級アルキルアミンであるため、差がないと考えられるにも関わらず、差がみられた要因としてはアルキル鎖の分岐数が多くなるにつれて立体障害の影響が強くなったことが考えられる。

3-3.アルキル鎖長比較
一級のアルキルアミンでアルキル鎖長の違いによる静的エッチング試験、研磨試験の結果を確認したところ、エッチング試験と研磨試験で異なる傾向がみられた。アルキルアミンではアルキル鎖が長くなると電子供与性が強まると考えられるためアルキル鎖が長い程、エッチングレート、研磨レートが高くなると推測される。研磨試験では、この考えの通りアルキル鎖が長い程研磨レートが高くなる傾向がみられた。一方、エッチング試験では、アルキル鎖長係数Rx※1が2までは研磨試験と同様にエッチングレートが高くなる傾向がみられたが、アルキル鎖長係数が3になると著しくエッチングレートが低下する結果となった。このような差が生じた要因としては、研磨中は立体障害による影響を受けにくく、かつウェーハ表面が常に新しい面に更新され続けるのに対して、静的なエッチングはアルキル鎖が長くなり立体障害の影響が生じたことと、アルキル鎖が長くなり疎水性が強まったアミンがウェーハ表面に吸着し留まるためにエッチングの進行が抑制されたことが考えられる。
※1アルキル鎖長係数Rx:
アルキル基の炭素数を相対的に表した指標で、値が大きいほどアルキル基の炭素数が多いことを示す。

4.まとめ
シリコンウェーハの研磨に研磨促進剤として用いられるアミンの化学構造に着目して静的なエッチングレートと研磨レートとの関係を調査した。その結果、静的なエッチングは立体障害などの影響を強く受け、一般的な塩基性の強さと相関し、一方で、研磨では圧力、せん断力、温度などの外的要因が加わることで立体障害の影響を受けにくく、窒素原子の電子密度の高さが研磨レートと相関することを明らかにした。

参考文献
1) 寺本匡志ら:シリコンウェハ研磨工程におけるスラリー砥粒の影響,2005年度精密工学会秋季大会学術講演論文集,p.281-282

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